会社が倒産して、両親に研ぎ師になると言ったのだが…
どうにも理解できないらしく、随分と揉めたのを覚えている。
親父様もお袋様も福岡の田舎の出身で僕が生まれる前に千葉県に出てきた。
一生懸命に働き、僕等兄妹を育て、家まで建てた。
親父様は若いころ指物師の仕事をしていたのだが、時代の流れを感じたのか、見切りを付けて窯業の工員として関東に出てきたんだ。
彼等にとって僕は自慢の息子だったんだと思う。
そこそこの大学に現役で入り、世間的に恥ずかしくない会社に入社して…
そんな息子が突然にハサミの研ぎを職業にすると言うのだから、やっぱりすぐには理解できないのが当然かもしれない。
親父様がその頃に言った言葉が忘れられない。
「お前はもっと凄い人間になると思っていた」と。
期待を裏切ってしまったのだと思う。
それから3年後に親父様はガンで死んだ。
今、研ぎ師になって本当に良かったと思っている自分を見てもらえないのが残念でならない。