· 

10年振りのお客様

昨日、10年ぶりのお客様から研ぎの依頼を受けた。

大袈裟ではなく、涙が出るほどに嬉しかった。

 

研ぎ師の仕事の特殊性なのか、仕事の依頼の8割から9割程度はリピートでの仕事なのです。

 

他の職人的な仕事と少し違うのは、仕事の成果を(お客様の反応)を直ぐに見ることが出来ない。

 

何かの製造物であれば、ある程度それを気に入って購入してくれた事が分かるし、料理であればその笑顔で満足してくれたかどうかが、ある程度分かるというものだ。

それに対してハサミの研ぎは、毛束で試してもらう程度で納品する為に本当にお客様が満足してくれたかは分からないのである。

 

仕事の評価が決まるのは、美容師やトリマーさんが「あれっ?何だか切れ味が落ちないぞ…前回どこの研ぎ屋さんだったかな?」と思ってくれて初めてリピートでの依頼となる。

 

勿論、常連のお客様だって私の仕事に満足できなかったら容赦なく依頼しなくなるだろう。研ぎ師は全国にいっぱいいるのだから。

 

だから、ハサミに対しては本当に一期一会の思いで仕事をするのが大事なのだが、どんなに最善を尽くしても離れていくお客様もいる…

 

技術者として引退したり、引っ越したりでならしょうがないことだけど、突然依頼が途切れるお客様もいる。

そんな時は気が狂いそうな気持で自らを省みるのだが、大体の場合は最後まで理由が分からないことが多い。

 

だから、久しぶりの依頼には飛び上がるくらい喜ぶのだ。

「あぁ…自分の仕事のミスのせいで依頼が無かった訳じゃ無かったんだ」と。